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Vol.33 WISDOM in Depth
コーパスが英和辞典を変える(1)

~ ビッグローブより ~
『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方が書かれたコラムをお届けします。

コーパスが英和辞典を変える(1)

■コーパスから隠れた意味を探る

コーパスを用いた言語研究において、語の使用の研究が飛躍的に進歩したのは、「コンコーダンサー」(concordancer)と呼ばれる検索プログラムのおかげである。
このプログラムを使ってコーパスから特定の語を検索すると、検索対象語(keyword)を行の中央に配置し、その左右に文脈を添えた検索結果が行単位で表示される。
この表示全体を「コンコーダンス」(concordance)、別名 “KWIC” (「クイック」< KeyWord In Context)と呼ぶ。コンコーダンスは、特定の語がどのような語と結合するのか、その典型的なパターンを目に見える形で示してくれる。
そして検索対象語の前後に現れる文脈を精査すると、母語話者でも気づかなかった言語事実に気づくことがある。
この連載では、コンコーダンサーでコーパスを分析すれば、語の振る舞いについてどのようなことが明らかになり、それがどのよう形で『ウィズダム英和辞典』の記述になったかを紹介してゆくことにする。
なお、最初に「三省堂コーパスとは?」も併せてお読みいただきたい。

第1回目は動詞causeをとりあげる。最初にこの語を三省堂コーパスで検索した結果の一部を示す。
11340行のコンコーダンスから1000行を無作為に抽出し、causeの右側1語目の語を基準にアルファベット順に並べ替えたものである。


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causeの右側に生じる名詞に注目して上から下へと見ていくと、 damage, death, diseaseが目的語として頻繁に使われていることがわかる。
さらにcauseの全データに対して右側1語目に出現する名詞の頻度を10位まで調べると、problems, cancer, trouble, disease, damage, death, pain, heart (disease/failure), harm, concernであった。
上で示した検索結果とこれらの語を見て気づくことは、名詞の示す内容が好ましくない出来事である点で、意味的に共通していることである。
したがってcauseは単に「〈出来事〉を引き起こす」を意味するのではなく、「〈問題・病気・被害などの好ましくない事態〉を引き起こす」ことを意味する。
『ウィズダム英和辞典』のcause (動) (他) 1aの語義をご覧いただきたい。


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「A〈良くない出来事など〉」と記してあるだけのことだが、この記述に至るまでには上述したようなコンコーダンサーによるコーパス分析が行われたのである。



著者プロフィール


赤野 一郎 (あかの・いちろう)
京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。



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