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Vol.37 WISDOM in Depth
baggageとluggage―((米))・((英))で割り切れない類義語

~ ビッグローブより ~
『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方が書かれたコラムをお届けします。

baggageとluggage―((米))・((英))で割り切れない類義語

center/centreのスペリングの違いやtakeout/takeaway(料理の「テイクアウト」)の語彙の選択について言えば、アメリカ英語(=((米)))とイギリス英語(=((英)))の違いははっきりしている。
しかし、従来((米))・((英))の違いという点から区別されてきた語句の中には、必ずしもそのように割り切ることのできないものもある。
baggageとluggageの違いがその1例である。

これまで、baggageは((主に米))、luggageは((主に英))と区別されることが多かった。
そのため、((米))の文脈ではbaggageを、((英))の文脈ではluggageを当てはめればすべて事足りると判断されても不思議はない。
その結果、米国のデパートでかばん売り場を探しても“baggage”は見当たらず、英国の空港で手荷物受け取りのためにバゲージ・クレームを探しても“luggage” claimは見当たらないことに疑問に思うことになる。

この場合、コーパスに基づく分析を行なうと両者の使い分けの実態がはっきりしてくる。
三省堂コーパスによれば、baggageの((米))・((英))での使用の割合は約6:4で((米))での使用がやや多く、luggageに関してはほぼ同数である。
これにより、両者の使い分けを((米))・((英))の観点から単純に説明できないことがまず予測される。
さらに、baggageとluggageそれぞれの前後に生じる語について、頻度順や連語関係の統計処理をするとさらに興味深い結果が得られる。
それによると、baggageの直前の語で目立つのが((米・英))excessや((米・英))extra、直後の語で目立つのが((米))claim/((英))reclaimや((米・英))checkである。
つまり、baggageは全体の頻度では((米))が多いが、特に空港での手荷物の受け渡しに関しては ((米))・((英))を問わずbaggageが使用される割合が高いことが分かる(各用例の文脈からも空港での使用例であることが確認できる)。

一方、luggageの直前では((米・英))carry-on、((主に英))handなどが、直後では(少数ながらbaggageでは見られない)((米))tumbler(スーツケースの耐久テストに使用される大型の回転筒)、((米))salesman、((英))space、((米))storeが目に付く。つまり、luggageは((米))でも使用され、特に商品としてのかばんを指す場合にはbaggageではなくluggageを用いるという傾向が見えてくる。

上記の結果が現場の使用状況と符合するかどうか検討してみよう。
米国の航空会社3社のインターネット・サイトで手荷物扱いの案内について見てみると、United Airlinesではbaggageが、Northwest Airlinesではluggageが、American Airlinesではbaggage、luggageともに使用されている(Baggage Tips and Information / How Your Luggage Is Checkedといった具合)。
また、英国の航空会社2社(British Airways、Virgin Atlantic Airways)では同様の文脈でbaggageが使用されている。

手荷物の扱いということであれば、鉄道の場合はどうかという疑問も湧くだろう。
例えば米国のAmtrakや英国のVirgin Trainsのサイトでは手荷物の扱いに主にbaggageが使用されており、空港と同様の傾向が見られる。
ただし、英国の鉄道には一貫してluggageを使用しているところもあり、英国では空港ほどはbaggageが使用されていないように思われる。

ところで、Amtrakの案内にbaggageとluggageを用いた次のような説明がある(太字は筆者):

Please be sure to pack your baggage using sturdy luggage or containers that are capable of withstanding expected handling.

つまり、((米))であっても収納の対象としてのかばんはbaggageではなくluggageで表されるということが分かる。
先の、「商品としてのかばん」と合わせて考えれば、同じかばんでも、買って荷物を詰めるまではluggageであり、それを持って旅行に出かければbaggageということになる。

これにより、上記のコーパスの分析は現場の状況を正しく反映していると言ってよいであろう。
実際、『ウィズダム英和辞典』luggage欄の類義コラム「baggageとluggage」は本辞典の他の記述部分と同様、コーパスの分析データを単純に取り入れたものではなく、それを基本にその他の関連する情報による検証作業を重ねて慎重に出された結論なのである。

さて、英国の空港でもbaggageが主流とはいえ、例外もいくつかある。
例えば、「手荷物一時預かり所」を意味するleft luggage (office) については、代わりにleft baggageを用いる例は少ないようである(ちなみに、((米))ではbaggage room、checkroom)。
『ウィズダム英和辞典』では((米))・((英))で用法の異なるその他の複合語の例については、分離複合語の欄や主見出しで個々に表記されている。

最後に、上記で触れなかった、baggageに特徴的な連語関係について付け加えたい。
三省堂コーパスによれば、baggageの直前には既に示した語の他にemotional、cultural、ideologicalといった語も多く生じる。
この場合のbaggageは「精神的な負担」、「固定観念」という意味でluggageによる言い換えはできない。
『ウィズダム英和辞典』ではbaggage欄の第2義の用例にemotional baggageを挙げ、コーパスの分析結果を記述に反映させている。



著者プロフィール


中山 仁 (なかやま・ひとし)
福島県立医科大学准教授。
専門は英語学。『ウィズダム英和辞典』編集委員。



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