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Vol.44 WISDOM in Depth
気になる語法―主節から独立したWhich節

~ ビッグローブより ~
『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方が書かれたコラムをお届けします。

気になる語法―主節から独立したWhich節

教科書や学習参考書では扱われていないにもかかわらず、実際にはしばしば見かける(あるいは、以前より多く見かけるようになったと思われる)気になる表現というべきものがいくつかある。
これについて適切な情報をより多く提供するのも英和辞典の役目であろう。
関係詞節が先行節から独立してできた文はそういった気になる表現のひとつであるが、これについて『ウィズダム英和辞典』ではこれまでにない踏み込んだ記述を行なっている。
以下では関係詞whichの語法コラム「先行詞から独立して用いられるwhich…」に関して解説を加えたい。

問題となっているwhichは非制限的関係詞で、先行文の内容全体、またはその一部を受ける。
この表現は意外にも幅広い場で使用されていて、((話))でも((書))でも用いられる。特に((話))では、先行文を述べた話し手が引き続いて独立したWhich節を発話する場合だけでなく、先行する相手の話を受けてWhich節を発話する(つまり、先行文の話し手とWhich節の話し手が異なる)場合もある点が興味深い(語法コラム内の用例がそれに当たる)。
また、((書))では文学作品から新聞、雑誌まで様々な場面で使用されており、文体上くだけた表現に限ったものではないことも分かる。

この表現で特に注目すべきは、Which節に用いられる動詞に関して、通常の(=独立していない)which節にはない特徴が見られるということである。
三省堂コーパスによれば、独立したWhich節ではmeans、brings (me [us] to)、leads (me [us] to)、reminds (me)などが高頻度で生じる。
特に、meansについては、独立文に生じるのはwhich means… 全体の1割程度ではあるものの、その数は他のどの動詞の場合よりも多い。
また、brings、leads、remindsについては、いずれも独立文の方が通常の場合より多く用いられている。

これらの動詞の共通点は何であろうか。
まず気がつくのは、いずれも現在形であるという点である。
これは、Which節の内容が先行文を受けて発話する時点での事柄を表していることを意味する。
では、どんな事柄を表しているのだろうか。
実際にそれぞれの動詞を用いた具体例を並べてみよう。

■“The dog’s lungs were clear.” “Which means that the dog was dead before the fire started?”(語法コラム内の用例)
■Which brings me to my next question about…(三省堂コーパスから;先行文は省略)
■Which leads me to the conclusion that…(同上)
■“Which reminds me,” she added. “I need to go shopping tomorrow. …”(同上)

上記の例をながめると、いずれの場合もWhich節は先行文の発話をきっかけに、それまで話し手(または聞き手)の意識になかった考え(結論や疑問など)を新たに(あるいは再度)引き出す場合に用いられていると言えるだろう。
これはWhich節のすべてに当てはまるわけではないが、語法コラムに記述された高頻度のWhich節に共通しているという点で興味深い。

このことから、主節から独立したwhich節には、単なる文体上の問題で片付けることのできない、特異な性質があることが分かる。

また、上記ほど際立ったケースではないが、which(あるいはwhichを含む句)が文頭に現れる表現は他にもある。
例えばIn which caseやWhich is to sayなどである。
『ウィズダム英和辞典』ではこれらを成句としても取り上げている(前者はcase、後者はsayの欄で)。
なお、Dual ウィズダム英和辞典[Web版]で成句検索をすればさらに他の例を見ることもできるので試していただきたい。

ちなみに、今回取り上げた語法コラムと同様の具体的で踏み込んだ解説を他の英英、英和辞典で見ることはまずない。
『ウィズダム英和辞典』はこのような気になる語法への配慮もすることで、いち早く言葉の変化を捉え、英語の「いま」を映し出すのに少なからず貢献しているものと思われる。



著者プロフィール


中山 仁 (なかやま・ひとし)
福島県立医科大学准教授。
専門は英語学。『ウィズダム英和辞典』編集委員。



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